---------とても短く、幸せな時間












「ついてないわね」

買い物からの帰り道、私はつい思ったことを口に出してしまった。

そんな私の横にはタイヤがぺちゃんこになってしまった惨めな自転車。

そして、そのかごの中に入っているのは大量の食料。

私はそれを見て改めてため息をつく。

特売だからといって、いつもより遠くまで買い物に来たのが仇となってしまった。

まさか雛見沢からこんなに離れた場所でパンクするとは……

買い物袋はとてもじゃないが、手で歩いて持ち運べる量ではない。

それにここから家まで歩けば最低でも1時間はかかる。

さて、どうしたものか……

と言っても、私の選ぶ道はただ一つしかない。

私はもう一度だけため息をついて、重い自転車を引きずりながら歩き出した。



――――カラカラ、カラカラ 



暗い道にタイヤから笑い声のような音が響く。

私はその音に少しだけ顔をしかめた。

まったく、タイヤの癖に人をバカにするわけ?

しかし私の怒りなどお構いなしにタイヤは笑い続ける。



――――カラカラ、カラカラ、カラカラ



あぁ、うるさいうるさいうるさい

私はその音にイライラしながら帰り道を急いだ。


















私が雛見沢の入り口にさしかかる頃には辺りはすっかり夜の気配が立ち込めていた。

周りの、もう古くなった電灯がチカチカと点滅する。

それによって私の影が目の前に作り出される。

それはまるで私を飲み込んでしまうんじゃないかというくらいに大きい。

そこで私は自分自身の子供じみた想像に自嘲みに笑った。

まったく何を考えているんだか……

百年生きた魔女がまさか影に怯えるなんて……

私は自分に喝をいれると、歩くペースを上げた。





――――カラカラ、カラカラ





夜の雛見沢につまらない単調な音が響き、森に吸い込まれていく。

そういえば、いったい何時なのだろうか

早く帰らないと沙都子が心配する。

それに……








この世界に残された時間は少ない。








だからこんなところで無駄に時間を使ってる暇なんてない。

少しでも行動しないと……

このままではまた私は同じ運命を辿ることになる。

綿流しの祭、もしくはそれ以降に待ちうける死。

死ぬのは自分だというのに、私の心は波一つたてることはない。

私の心は死に慣れてしまったのか……

それとも生きることを諦めてしまったのか……












――――カラカラ、カラカラ……マッタクオ前ハ


……何が可笑しい。


――――ホントハ怖インダロ?


私は何も怖がってはない。


――――怖イクセイニ、オ前ハソウヤッテ強ガル……


違う! お前に何がわかる!


――――ワカルサ、本当ハ泣キタイクライ怖インダ


違う……私は……


――――永遠ニ幸セガ訪レナイコトニ……


違う…違う…違う!!


――――カラカラ、カラカラ、カラカラ……


笑うな! お前なんかに私の気持ちがわかってたまるか!


――――カラカラ、カラカラ、カラカラ、カラカラ……


だまれだまれだまれだまれだまれダマレダマレダマレ!
























「梨花ちゃん?」

私は後ろから声で我にかえった。

気がつくと、顔も手も汗だくになっていて……

自分で噛み切ったのか、唇から血が流れていた。

私はそっと後ろを振り返る。

「圭一……」

そこに居た圭一は自転車に乗りながら、不安そうな顔をして立っていた。

「どうしたんだ、こんな時間にこんな所で……」

「みぃ☆ ちょっとタイヤがパンクしてしまったのですよ」

私は気づかれないようにそっと血をふき取ると微笑んだ。

「そっか……ならいいんだけどな」

圭一は笑いながら私に近づいてくる。

「それじゃ、家まで送るけど……」

圭一が本当に近くまで来たとき、彼の顔から笑みが消えた。

「梨花ちゃん、なんかあった?」

その言葉に一瞬ドキリとする。

私の先ほどまでの事が……

でもすぐにそれはないと気づく。

だって圭一がそんなことを知りうる訳がないのだから。

しょせんこの苦しみは誰にも判るはずはない。

そう、誰にも……

「どうしてですか? ボクは元気ですよ☆」

私は精一杯の笑顔で答える。

しかしそれでも圭一の顔は変わらなかった。

いや、悲しそうな顔に変わっていた。

「圭一?」

どうしたのかと尋ねる前に私は圭一に抱きしめられていた。

それは本当に突然で、私はまったく動けなかった。

「・・・んで・・・・」

耳元で圭一が小さく呟いた。

「圭一?」

「じゃあ、何で泣いてるんだよ!」

「え……?」

私には圭一が何を言ってるのかわからなかった。

と言うより、理解できなかった。

そんなはずはない……

私にはなく理由なんて……

私はそっと指先で自分の頬に触れた。

すると指先が微かに濡る。

私は……確かに涙を流していた。

「あ、あははは。何で泣いてるのか僕にもわからないのです……だから心配いらないのですよ」

私はそう言って圭一から離れようとした。

これ以上圭一にこんな姿は見られたくない……

しかし、圭一はさらに私を強く抱きしめた。

「梨花ちゃん、俺じゃ頼りにならないのかな?」

圭一は喉の奥から声を絞り出すように言った。

「どうしたのですか? 圭一」

「俺、気づいてたんだ。梨花ちゃんが時々苦しそうな顔を見せる事を……」

「え……」

「それでも…それでも梨花ちゃんが強く振舞うのを見て、何も言えなかった」

圭一がそんな事を…

「確かに俺は梨花ちゃんが何で苦しんでるのかもわからない」

いつの間にか圭一は私を離していた。

その代わりに私の前にしゃがんで、私の顔をじっと見つめていた。

「でもさ、苦しかったら俺の前だけでも涙を見せて欲しいんだ……」

私の顔を見て弱弱しく笑っていた。

「絶対に梨花ちゃんが頼ってくれるような男になるから……」

その言葉に私の目から涙が溢れ出すのが分かる。

私はついに全てを理解した。

私の心は死に慣れてなんていない。

生きることを諦めてしまったわけでもない。

そうだ、さっき聞こえてた声の言う通りじゃないか……

本当は怖かった。

幸せなんて永遠に手に入れられないんじゃないかということが……

そしてこの苦しみが誰にも理解されないことが……







でも違う……









幸せが永遠に手に入らない?

圭一がこんなに近くで私を見ていてくれてるのに?









誰にも理解されない?

圭一は私が苦しんでることをわかってくれてたのに?








「圭一……圭一ぃ!」

私は自分から圭一の胸に飛び込んでいた。

彼はこんなにも頼もしくて……こんなにも温かいじゃないか……

それを自分で見えなくしてしまっていた。

「ごめんなさい、圭一……あなたがこんなにも私のことを…」

「いいんだ。俺は梨花ちゃんが泣きたいとき、苦しいとき……近くに居てあげられなかったから」

「……ありがと……」

圭一は私の頭を優しく撫でてくれた。

私はその温かさの中で何十年分も涙を流し続けた。






















夜の雛見沢に一つの影が動く。

「なぁ、二人乗りって……ちょっと危なくないか?」

「心配いらないのです。圭一がしっかり運転してくれればいいのですよ☆」

私は圭一の自転車の後ろで彼の肩を掴みながら答えた。

風が私の目の下の涙を乾かしていく。

「それよりも、早く帰らないと沙都子が心配するのですよ」

「よっしゃ! それじゃ、しっかり掴っていろよ!」

自転車の速度がぐんぐん上がっていく。

「もちろんなのです! もうずっと放さないのですよ☆」

私は圭一にしがみつきながら感じていた。















二人でいるこの時間は




          この世界に残された……とても短く、幸せな時間なのだと……














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藍華様作 『イメージイラスト』

イメージイラストを頂いたので、大幅に書き直して見ました。
それが良い方向に書き直せてるといいのですが…w
一応旧作が読みたい人はこちらからどうぞ!

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