ひぐらしのく頃に

        『白々し編』
























  ― 帰り道 ―







「まさか、黒杉さんが……」

「熊ちゃん、あの少年、何者ですか?」

「………すんません、大石さん。それは言えないんスよ」

「……それじゃあ質問を変えましょうか」

大石はそう言うと、あの独特の笑みを浮かべた。






「んっふっふ。……お二人、どういう関係で?」






「…………」

その質問に熊谷の目がすっと細くなった。

それは答えを考えてるようでもあり、昔を懐かしんでるようでもあった。

「……古い、友で。仲間で……。俺の命の恩人ス」

「ほぅ…………意外ですね。熊ちゃんが死にかけたんですか。……んっふっふ」

「えぇ。ずいぶん前の話スけど、あの人がいなきゃ……俺はいないんスよ」

「随分前って……。あの子、まだ十七、八でしょう?」

「!? あ、あぁ…そうっスね。はは……何言ってんでしょう」

「…………? しっかりして下さいよ、熊ちゃん」

「はいっス!!」

熊谷の笑顔の裏に大石は別の顔を見ていた。








(熊ちゃん。あんた……まだ何か隠してますね)










































  ― 誘拐事件 ―







深夜、入江診療所。

私……、入江京介は一日の仕事を終え、これから睡眠に向かおうとしていた。





………その時。





診察室のドアが開いた音がして、振り返った。

しかし、そこには誰もいない。

「おかしいですね……。ドア、開けっ放しでしたっけ?」

そう呟き、またデスクを向く。



すると、次はドアが閉まった。



「!!?」

流石におかしい。

窓が閉まったこの診察室には、風は入らないはず……

ドアが閉まるなど有り得ない。


そう思い、立ち上がった瞬間。

ソレはそこに居た。


「!!? うわぁぁぁっ!!!」

「かっははははは!! ようやく気付いたのかい? はじめまして、だよなぁ? かははははッ!」

私のすぐ目の前。

天井から、少年がぶら下がっていたのだ。

真っ黒な服に身を包み、赤い眼を爛々と輝かせた少年が。

「な……!!? あ、あなたは……」

「僕の名前に興味があるかい? 『入江京介』」

「なっ…!! どうして私の名を!?」

「かははははははッ!! まぁ、そいつぁはおいといて。僕は伐椙鏡雨って言うんだ。始めまして」

「え……えぇ。……始めまして」

「おぉ。僕が名乗って、普通の反応が返ってきたのは久しぶりだよ。なかなか嬉しいね。かははははッ!!」

この少年、纏う雰囲気と眼差しは異様だが、話は普通に通じる。

雛見沢症候群のL5の訳ではないようだ。

「キャーッ!! そんなに僕を見つめないでぇーッ!! なーんてね、かははははッ!!!」

再び哄笑する。

「あ、あはは………で、伐椙君は…」

「鏡雨で良いよ、おにーさん」

「お、おにー……」

「僕はあんたが気に入った。鏡雨ちゃん、じゃないぜ? 鏡雨君って呼んでくれよな。ひゃっはははぁッ!!」

「……わかりましたよ。鏡雨君。それで、君はなんのようですか?」

「ん? あぁ…忘れるとこだった。僕は別に用はねぇんだ。『アイツ』がね」

そう言って彼はぶら下がることを止め、どこの筋肉をどう使ったのか、

床に器用に着地した。

「『アイツ』?」

「おぉっとぉ!! トップシィークレェェェッット!! 秘密なんだ。ゴメンね、おにーさん」

「………それで? その人に頼まれたわけですよね。何の用ですか?」

「かははははは!!」

再び哄笑したので、また関係のない話をするのだろうと思っていた。







「北条悟史を、渡してもらおう」







「……え?」

「聞こえなかったのかい? 仕方ないなぁ。もう一回しか言わないぜ? 北条悟史、渡してくんない?」

「悟史……君を?」

「そうさ、おにーさん。何かさぁ『アイツ』がエラく気に入ってるみたいでさぁ。
 僕としてはちょっと嫉妬しちゃうね。『ダーリンはもう私にふりむいてくれないのッ!?』ってな。かははッ!!!
 ………って、ふざけすぎたらまずいよね。で、素直に渡してくれる? それとも、抵抗する?
 先に言っとくけど『山狗』の皆さんはいないからね。抵抗できるのは、おにーさんだけだよ」



鏡雨君の言う『アイツ』が何を狙っているのかわからないが……



悟史君を渡すわけにはいかない!!



私は、机の引き出しにしまっておいた拳銃に手を伸ばし、彼の胸元に突きつけた。



「………あ〜あ」

鏡雨君が突然つまらなそうな溜め息を漏らした。

「別に良いんだよ?僕は。結局北条悟史は貰っていくからさ。
 ただ、おにーさんがケガするか、しないかの違い。………ま、抵抗するってんなら仕方ない」

そう言って、右手の手袋を外し始める。

右手を外したら、次は左。




両方の手袋を外し、『血を浴びたまま放っておいたかの様な』手を露わにする。




「なッ!?」

彼は、私を人差し指とおぼしき指で指差し言った。

「できるだけ痛み感じねぇうちに気絶さしてあげるからさ。あんまり抵抗しないでよね。
 ……ひゃぁぁぁっはぁッ!! そんじゃあ、いぃぃぃくぜぇぇぇッ!!! 水無月ぃぃぃ……羨望ぉぉ!!!」

両足を揃え、回転しながら飛び上がった。

歪な腕だけが広げられており、

私は彼の動きに反応できなかった。










彼が私の真上にきたとき。





こちらを向いたとき。





私が彼を見上げたとき。





彼は笑いながら、『言い放っ』た。





「ひゃぁぁっっはぁぁぁぁッ! きょぉぉっげぇぇぇつ!!!」





私が気絶する直前にみたのは。

彼の歪な両腕が変貌し。



まるで、私を『喰い殺す』かの様に。

まるで、総てを叩き潰すかの様に。



鋏のように、変化し。

私に襲いかかる姿だった。




















そして私が眼をさましたときには。

既に空が白み始めており。





悟史君は、居なくなっていた………












――――――――――――――――――――――――――――――――――――― to be continued...


第3話 『June-Nineteenth [Watanagashi]





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