ひぐらしのく頃に

        『白々し編』
























  ― 長袖の理由 ―







帰り際。

園崎がバイトに行ってしまったが、

まだ全員興奮さめきらぬ……という感じだ。

みんなで話ながら自転車を押して帰る。



……悪くないな。こういうのも………



ちなみに俺は徒歩だ。

野宿の奴が自転車を持っているはずがない。

そして、雛見沢と興宮の境界のあたりに来たとき、

「なぁ悠貴、前々から気になってたんだけどさ。」

「…………何だ?」

「暑くないのか? そのカッコ」


いつかは来るだろうと覚悟していた、当然の質問。


「………別に暑くは、ない」

「みぃ………悠貴は家でも長袖手袋なのですよ。」

古手も気になるのか。

「それに授業中も手袋してるよね。どうしてかな、かな?」

……まったく、竜宮の洞察力には感服だ。

いや、こんな格好をしてたら目を引くのも当たり前か。

「……簡単な理由だ」

俺はそう言って、左手の手袋を外し始める。





「怖がらせないため、だよ。」





手袋を外し終えると、誰かの息を飲む音が聞こえた。

………無理もない。

俺の手は、まるで血にまみれたまま放って置いたかのような、

赤黒い、どす黒い色なのだから

しかも、指は異常に細く先端が尖っている。

「………ちなみに、右手も同じだ。両方肩まであるから、必然的に長袖に手袋のスタイルになるんだ。」

そう言って、袖を捲り上げる。

…………こっちの方が気持ち悪いだろうな。

腕は手と同じ色に加えて、肘の辺りが歪に曲がっている。

普通なら膨らむはずの肘が、逆に円形にえぐり取られたかのように。

失われているのだ。

そして、その分の質量をまかなうかのように、

所々が尖っている。


「…………怖いだろう? だが、歪な腕でもこれは俺の腕なんだ。物心ついたときから、こんな腕なんだ。」


コレは、嘘だ。

本当は奴らの『実験』のせい。

だがコイツらにはできれば言いたくない。

それこそ邪悪な世界だから。

コイツらのような綺麗な奴らに、俺の悲惨な過去を語るわけにはいかない。

良い奴らだから、コイツらは。

そして左袖を元に戻し、手袋をはめる。







「……悪かった」







申し訳なさそうに圭一が言う。

俺はそれに軽く笑いながら、努めて明るい声で言った。

「………別に謝らなくてもいい。
 ある日突然こうなったら、流石に慌てるだろうが………物心付いた時から、こうなんだ。
 ……俺にすりゃ…それだけの事だ。」


…嘘ばかりだな。俺は。


全員黙ってしまっている。










「明日………園崎にも見せなきゃ……だな」

「……? どうしてかな、かな?」

「……俺の手が気味悪いから退部かもしんないだろ?」

竜宮が、首を横に振る。

「そんなことないよ! 悠貴君は確かな腕前だし、それに……」

「………たとえお前の手が黒くても歪でも、お前はもう俺たちの仲間だよ。」

「はぅッ!! レナの台詞、取っちゃダメだよ圭一君!!」

「みぃ☆ 圭一の言うとおりなのです。悠貴はボク達の『なまか』なのですよ。」


古手、お前27時●テレビ見てやがったな?

って、俺は何を!!?

……いかん、どうやら圭一に感化され始めているようだ。


「そうですわー! わたくしは悠貴さんを負かすことを、当面の目標としていましてよー!!」

温かい言葉だった。

だが俺は……『鬼』には少し、届いた……のか?

自然に言葉が出た。




















「………ありがとう」










































  ― 渡したい人 ―







夜中、梨花との会話を終えた後。


一人で月を眺めていると、悠貴が起きたのです。


「………」

おもむろに、梨花と沙都子を起こさない様に、

(布団が三つもないので、悠貴は梨花と沙都子の間で眠っているのです)

起き上がり、玄関へと向かいました。

「あぅあぅ……一体どこへ?」

そして、今日貰った人形の紙袋を持ち、外に出たのです。

「あぅあぅ! わかったのですよ!! 『謎は全て解けた』なのです!」

きっと『渡したい人』の所へ行くのです!!

「ふふふ〜、僕だけが悠貴の想い人を知ってしまうのです」

ぺたぺたと悠貴の後をついていく。

外に出た悠貴は、雛見沢を一望できる場所から雛見沢を見下ろしていました。

「なるほど………ここで待ち合わせなのですか。しかしいつ連絡したのですか?」

あぅあぅ、でも答えは返ってくるはずはない、

「………連絡なんてとっていない。」


「そうなのですか………ってえぇぇぇぇぇ!!?」




ゆ、ゆ、ゆゆゆゆ悠貴は………

ぼぼぼぼぼぼ僕の声が……?




「落ち着け、KOOLだ………KOOLになれ、僕!!なのです。
 今のはきっとたまたまなのです。偶然なのですよ。」

「何圭一の真似してアホな事やってんだ……」

そうなのです。

僕もわざわざKOOLになれ! と言うのはアホらしいと、

「ほら」

悠貴がこちらを向いて、紙袋を差し出しているのです。

僕の後ろには、誰もいないのですよ。

と、言うことは……

「お前も参加してたのに、お前だけ無しってのは何か狡いだろう。
 ………圭一ならそう言いそうだ。やるよ。お前に。……羽入」

「あ…………あぅ…あぅ……」

「? ……おい、どうかしたのか?」

「僕が…見えるのですね? 声が……聞こえるのですね?」

「当然だろうが。それに、……触れることも」

そう言って悠貴は、僕の頭をなでましたのです。




















その後、僕が落ち着いてから話始めました。

お人形はちゃっかり貰ったのです。あぅ☆

「それにしても、悠貴は何故僕の名前を知っているのですか?」

「…………」

悠貴の表情が突然ゆがんだ。

「………ちょっと待て。お前が今まで話しかけてこなかったのは、『あの時』の事を引きずってたからじゃないのか?」

「あぅ? あの時…………っていつなのですか?」

「…………あぁ。なるほどな」

悠貴が目に見えて落胆しているのです。

僕のせいなのでしょうか?

「久しぶりに会えたと思ってたんだが……。なるほど、忘れてるのか。……無理もないか」

「あぅあぅ…僕と悠貴は知り合いなのですか? ………会った覚えがないのですよ」

「そりゃあそうだろう。随分昔の話だからな。名前も変わっているし。姿も『コレ』じゃなかった」

「あぅあぅ、よく似た別人ではないのですか? 昔といっても、精々十年ぐらいなのですよね?」

悠貴の肉体年齢は十七、八ぐらい。

覚えていても七か八ぐらいのはずなのです。

「違う違う。それより前だ。ずっとな」

「あぅ?」

『ずっと』とはどういう意味なのでしょう?

「まぁ良い。いずれ思い出すだろ。……んじゃ、また明日」







「あぅあぅ! ま、待って下さい!!」







「何だ?」

「悠貴は…悠貴は………梨花の………梨花達の………」







「……敵でも、味方でもない。だが、お前に……羽入に『助けられた』のは、俺の中ではスゴくデカい事だ。
 たとえお前が覚えていなくても。……だから」















悠貴は振り返り、微笑んだのです。


まるで、月のように優しく輝きながら。















「俺はお前の味方だ」












――――――――――――――――――――――――――――――――――――― to be continued...


第2話 『Shadow Of The Words





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