いったい何があったの?
古手梨花はふとそう考えてしまう。
それほどにも昨日とはぜんぜん違う表情。
「羽入、発症してるの?」
「・・・多分そうなのです。
でも何で圭一まで・・・?」
「私にわかるわけ無いじゃない。」
いつもの3人。
けれど魅音は話しかけられない。
それほどにまで2人は他の人々を拒絶している。
「今日は沙都子が罠をしかけなくてよかったわね」
「あぅあぅ、まったくなのです。」
沙都子の罠は正直洒落にならない。
だからこそ疑心暗鬼にのまれた2人には危険だ。
例を挙げて説明しよう、2人は火薬だとする。
そこに沙都子の罠・・・いわば火種である。
一気に爆発することは火を見るよりも明らかだ。
そこまで考えると梨花は圭一のそばによる。
「圭一、おはようなのです。」
「ああ、梨花ちゃん、・・・ん・・・。」
不意に圭一が顔を背ける。
圭一に誰かの視線が向けられたのだろう。
そう、レナの視線が圭一を射抜いていた。
「羽入・・・これって・・・」
「レナはもう手遅れみたいなのです。
圭一もまだ軽いですが・・・いずれは・・・」
「まだ諦めない、あなたはそこで指をくわえて見ていなさい。」
「あぅあぅあぅぅぅ」
こんなことで・・・私は負けない。
そうだ、昨日誓ったばかりじゃないか。
圭一は私が手に入れる、絶対に惨劇を越える。
もし、惨劇を越えられたら・・・その時圭一に告げるとしよう。
「け、圭ちゃんなんかおかしいよ?
どうしたの、もしかして欲求不満?」
魅音が出来うる限りいつもの調子で話し掛ける。
圭一は一瞬戸惑ったが・・・一言だけつぶやいた。
「・・・そうかもな」
欲求不満とは自分の望むことが満たされないときに起こる感情である。
確かにそうなのかもしれない、俺はみんなと一緒にいたいという欲求がある。
けれど出来ない、本当なら今すぐにでもふざけ合いたい、けどレナは・・・・・
レナは完全に仲間を拒絶している、どうして、どうして・・・仲間を疑ってしまうんだろう。
俺はレナの袖を引っ張ると無言で教室を出る。
レナも俺の意図を理解したらしく無言でついてくる。
「レナ、やっぱり俺は信じられない」
「・・・」
レナは無言のままだ。
次の言葉を待っているのだろう。
なら望みどおりにしてやるさ、俺は信じたい。
仲間を、絆を、そして取り戻すんだ、こないだまでの平穏を。
「俺はあいつらを信じる。
連続殺人なんて恐ろしいことに手を貸したりはしない。
俺は信じる、だからおまえも信じろ、魅音を・・・本当の仲間を!」
レナの唇が動いた。
「ふーん。」
完全に俺を信じていない。
駄目なのか、俺はレナを救えないのか?
「圭一君は誤解しているよ。」
「え?」
レナはそこで言い放った。
「仲間?たった1ヶ月いただけで?
そんなの圭一君の勘違いだよ、だって魅ぃちゃんたちは・・・
圭一君のことを仲間だなんて少しも思っていない、知らないの?」
嘘だ、そんなわけ・・・
でも俺の心に少しづつ疑惑が広がっていく。
俺だけが勘違い?たった1ヶ月・・・その上よそ者・・・
俺は、俺たちは決して本心から相容れることは出来ないのか!?
レナだけは俺を理解してくれるのか?
「でもね・・・実はレナはよそ者なんかじゃないんだよ。」
ドクン
心臓が大きく跳ねた。
「レナは幼稚園まではここに住んでいたんだよ。」
じゃあ、俺は・・・俺だけが・・よそ者?
決して相容れることの出来ない存在?
俺だけが・・・決して交わることの出来ない世界。
そんな・・・そんな・・・嘘だろ・・・せっかく新しい生活を求めてきたのに・・・
「・・・うっ、ぐぅ・・・ううぅ・・・」
涙がこぼれてくる。
止めたいのに止められない。
俺だけが勘違いをしていたんだ。
俺だけが一人で仲間のつもりだったんだ。
「畜生・・・畜生・・・」
圭一はまだ気づけない。
それは間違い、とても大きな間違い。
年月なんて関係ない、よそ者なんて関係ない。
圭一は既に雛見沢の住民で、みんなの掛け替えのない仲間なのに・・・
「・・・おもしろくないわね・・・」
黒い羽の少女はつまらなそうにつぶやいた。
それはこの悲劇の結末に比べたら本当に些細なこと。
けれど、見ていると私まで悲しくなる・・・悲しみなんて感情があったのか。
ああ、そうか・・・ワタシは寂しいのかもしれない・・・だからこの圭一に感情が入る。
ワタシは誰からも外れた存在、だからワタシの喜びも苦しみも悲しみも怒りも嘆きも、
究極のところ誰にもわかってもらえない、誰もワタシを理解できない、圭一も今は・・・
そんな感情なのだろうか・・・でも圭一にはまだ親がいる、理解する者もいる。
理解しようと努力する者もいる・・・そうだ・・・羨ましいのかもしれない。
「・・・ワタシもそろそろ潮時か・・・」
前々から考えていたことがある。
けれどそれを実行に移すのは躊躇われた。
できるかもしれないけれど出来ないかもしれない。
「・・・名前・・・」
誰にも呼ばれないから必要ない。
今まではそう考えてきた、けど欲しい。
名前がないのは存在していないのと同じではないか?
ワタシは確かに存在している、だけどもし消えたとき・・・
ワタシが存在していたという確固たる証拠は残らない。
墓もなく、悼む人もなく。
誰にも知られずに生まれ、消えてゆく。
なんと悲しいことか、なんと辛いことか。
「・・・え?」
気が付くと目から水が落ちていた。
体はないのに・・・なんでワタシは泣いているの?
「・・・この悲劇を受け入れる・・・」
そしたらワタシは実行する。
彼女たちをあるべき正しき世界へと導いてみよう。
このカケラを壊して、新たなるカケラを作ろう。
たとえ私が消えても・・・そのカケラは残る、未来永劫。
それはつまりワタシが存在していたことの証明・・・。
「・・・古手 闇花・・・」
諦めと絶望から生まれた虚無の存在。
闇より生まれた、闇に咲いた一輪の花。
いずれは闇に還る誰にも知られずに去る存在。
「・・・呼んでくれる人がいないと無意味か・・・」
闇を人々は恐れる。
でも光があるから闇がある。
闇がなければ人々は光を認識できない。
光の影で光を支えるだけの存在・・・闇。
それはまさにワタシそのもの・・・彼らを支える。
それでも彼女はどこかうれしそうだった。
「『古手 闇花』・・・」
もう一度自分の名前を呼ぶ。
名前があるということはいいものなのかもしれない。
「さあ、見届けよう。
彼らの悲劇を・・・・・・」
黒い羽が大きくはばたく。
「カケラから見るよりは・・・実際に行ったほうがいいか」
悲劇をワタシは受け入れる。
絶望だってどんな負の感情も受け入れよう。
そして支えよう、希望を、未来を、幸せを。
--------------------------------------------------------------to be continued...
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