銀時は真っ暗な中を落下していた。


いや、もしかしたら上昇してるのかもしれない。

それとも空中に停滞してるだけなのかもしれない。

「ぶほあっ!!」

しかし地面に衝突した事により、銀時はやはり自分が落下していたのだと理解した。

「げほ、げほ……あぁ〜、ひでー目にあった。」

体の埃を叩きながら銀時は立ち上がる。

辺りを見回してみるが薄暗いのでよく見る事は出来ない。

しかし、上に天窓らしきものがあるのでどうやら室内である事はわかる。

しばらく歩き回っていると銀時もようやく暗闇に慣れてきた。

そして壁一面に飾られている『それ』が目に付いた。

銀時は歩み寄ると、それに触る。

冷たい感触が指に伝わった。

「こりゃ……悪趣味だな。」

長い間使われていないが、どうみても拷問器具だ。

こんなものが保管されててるなんて、ろくな所じゃないだろう。

(……めんどくせーな、どうも。)

銀時がそう思ったその時、背後から光が差し込んできた。

「どうやら、お迎えが来たみたいだな。」

銀時が振り返ると、そこには知っている顔と見知らぬ顔があった。

「よう、羽入。」

「羽入、この男が?」

羽入が答える前に、その隣にいた黒い髪の少女が割って入った。

「そうです。ボクが呼んだ助っ人です。」

羽入の隣にいたのは黒い髪の少女だった。

その少女は……10才くらいだろうか。

それにしては喋り方がやけに大人びている。

……そして、ひどく冷たい目をしていた。

「おい、羽入。それが?」

「そうです。この子が銀時の助けるべき対象なのです。」

「それとは、ヒドイ言い方ね。」

その棘のある言い方に銀時のこめかみがピクリと動いた。

「お前が自己紹介しないんだからしょうがねーだろうが……」

「……初対面なのにずいぶん馴れ馴れしい男ね。それにあんただってしてないでしょ。」

「梨花…、そんな言い方は……」

梨花と呼ばれたその少女は銀時を睨みつけたが、直ぐに視線をあさっての方に向けてしまった。

どう見てもお互いの第一印象は最悪。

「銀時は梨花の事を知ってるはずなのです。」

「知ってる? 俺はこんなガキは初めて見るぜ?」

「ガキって、……あなたねぇ、」

「まぁまぁ、梨花はもう家に戻ってるといいのです。ボクも銀時に色々教えたら戻りますから。」

「……ふぅ。」

梨花は最後にもう一度銀時を睨みつけると、外へと出て行ってた。

羽入はそれを見送ると、銀時の方を向きなおした。

「銀時、もう少し口の聞き方を考えた方がいいのです。」

「うるせー、うるせー。んなことより、知ってるってどう言う事だよ。」

「……ここに来る途中、ボクの記憶をコピーして渡しておいたのです。」

「コピー?」

「やってみればわかるのです。銀時、ボク達の村の名前は?」

「はッ!? 知るわけ…」

そこで銀時の瞳が大きく開かれた。

「…………雛見沢。」

銀時がそう言うと羽入は笑った。

「ね? 銀時は知ってるのです。」

「……はぁ…」 銀時は降参だと言った様子で手をあげた。

「確かに分かるな。」

銀時は困惑しながらもしっかり理解していた。

ここは祭具殿。

さっきの少女はは古手梨花。

梨花は毎年同じ時期に誰かに殺される。

それを回避するために、羽入と何度も人生をやり直している。

そう、何度も……何度も……

「……こりゃ、本当にめんどくさいな。」

「銀時、……その、えっと、」

「……んな顔するな。」

銀時はそう言って入口の方に歩きだした。

「こう見えても約束は守る方だ。」

「銀時…」 逆光で陰ったはずの背中なのに、羽入にはそれがとても頼もしく映っていた。





































「にしても、知らないのに知ってるってのは変な気分だな。」

祭具殿から出て、羽入と二人で歩きながら銀時は呟いた。

銀時にとって、見るもの全てが初めてのはずだ。

それなのにすべて分かる。

まるで昔からここに住んでいたような感覚だ。

「銀時、さっきの梨花の態度は……仕方ない事なのです。」

「ん? なんだよ突然。」

「彼女は世界に失望してしまっているのです。……たぶん、ボクにも。」

「……どういうことだ。」

銀時が羽入を見つめると、彼女は体をよじった。

「えっと……えっと……」

羽入が中々言い出さない隣で銀時は腕組みをした。 「……そうか。お前があいつの手助けをしなかったからか。」

「!? どうして……それを。」

「なんたって、俺はお前だからな。」

銀時はそう言って意地悪そうに笑うと、自分の頭を指差した。

羽入はそれを見て苦笑する。

「自分の与えたくない記憶まで与えてしまうのですね。まったく、厄介な力なのです。」

「自分の力も制御できないようなお前が悪い。」

「……そうですね。すべて、ボクのせいなのです。」

「…羽入?」

銀時は明らかな羽入の変化を感じ取った。

羽入はすでに、自分の世界へと入ってしまっている。

「少しでも長く、あの子と一緒居たかった。だから私は彼女に生きるすべを教えた。……戦うすべではなく、運命から逃げる方法を。」

「それが、結局……あいつを失望させてしまったわけか。」

「そうです。だから彼女は逃げ続けているのです。……仲間からも。」

「仲間?」

銀時は必死で頭の中からその仲間に対する情報を引き出そうとした。

しかし名前はおろか、顔さえも浮かんでこない。

「……まだ、慣れないのですね。その力には。」

羽入が銀時の心中を悟ったかのようにそう言った。

「慣れるも何も、こんな事が出来る意味が分かんねーよ。……ま、その内に何とかなるだろ。」

「…………ぷっ! ふふふふふふ。」

「何だぁ? いきなり笑いだしやがって。」

「本当に面白い人なのです。……銀時になら梨花を任せられるのです。」

「はぁ? 何言ってんだお前は!」

銀時はそう言うと羽入にデコピンを喰らわせた。

スパーンと軽快な音が境内に響く。

「痛ったたた……何するのですか!!」

「それはこっちの台詞だ! 何勝手に俺に任せようとしてるんだよ!!」

「え……だって、さっきは、」

「誰が任せて良いなんて言ったんだよ! 俺は手伝うだけだ!! お前もしっかり働けよ!!」

「!! ………はいなのです!!」

羽入は満面の笑みで銀時の腕に抱きついた。

「うおっ! 危ねーだろーが!!」

「銀時をここに呼んで、大正解だったのです。」

「……ちっ! ……俺はさっさと終わらせて江戸に帰るからな!!」





「帰れる訳ないでしょ?」





そう言ったのは銀時の前方の木にもたれかかってる人物。

「梨花……」

「羽入も、連れてくるならもっとロクな男連れてきなさいよね。こんな天パじゃなくて。」

「…おーおー! 言ってくれるじゃねーの!?」

銀時は不敵に笑うと、梨花の目の前に立った。

必然的に梨花は銀時の顔を見上げる形になる。

「何? 文句でもあるの?」

「いや、別に? ……お前なんかには文句言うのすら勿体ないしな。」

「何ですって……」

今まで無感情だった梨花が始めて銀時に対して怒りをあらわした。

その怒りの眼差しを、自分よりもはるかに背の高い男に向ける。

しかし銀時はその目線を無視してしゃがみ込むと、じっと梨花の顔を覗きこんだ。

「…………」

「…………」

二人とも黙ったままお互いの目を見つめあう。

しばらく経った後、銀時はポツリと言った。

「お前、仲間とやらを見下してるよな。」

「!!!」

その言葉に梨花の表情が変わる。

それは明らかな動揺だった。

しかし直ぐに表情を元に戻すと、銀時を再度睨み付けた。

「えぇ、そうよ! あの子達は何の役にも立たない。ただのお子様なの!! ……どれだけ私が苦しんでるかも知らずに……」

「てめぇもガキのくせに何カッコつけてんだか……」

「な!?」

「一人でカッコつけて、悩んで、それで死んだから仲間に八つ当たりか?」

「…………」

「そんなに、お前は死にてーのか?」

「は? 何言って、」

「差し伸べられた手をどうせ無理だと諦めて、助かる可能性も捨てて、そんなに死にたいのか?」

銀時の視線に梨花は下を向いてしまった。

それを遠くから見ていた羽入は感じ取っていた。

梨花が……自分の心と向き合っている。

「仲間がどうとか、この世界がどうとかはこの際聞かないでやる! だからこれだけは答えろ。」

そう言って銀時は梨花の顔を無理やり自分の方に向けさせた。

「お前は、そんなに死にたいのか?」

しばらく沈黙があった後、梨花の口がかすかに動いた。

「…………た…ない…」

「あぁ? 何か言ったか?」

「…死に…たく……ない……」



「全ッッ然、聞こえねーなぁ!!」

























「死にたくないに決まってるでしょ!!!!」

























その梨花の大声に、木の上から鳥が飛び去った。

「死にたくない! 生きたい!! 仲間と一緒に夏を迎えたい!!!」

梨花は必死に声を出していた。

それは、彼女の心からの叫びだった。

100年生きた……まだまだ幼い女の子の叫びだった。

「……そうかィ。」

銀時は立ち上がると梨花の頭の上に手を置いた。

「そんじゃ、一緒に見るか?」

「何を?」

梨花は涙をぬぐいながら銀時の目を見つめた。

「……お前のまだ知らない、今年の夏に決まってるだろ。」

「え……」

「羽入! 家ってあそこに見える奴か?」

「あ、え? そ、そうなのです。」

「おし!」

銀時はわしゃわしゃと梨花の髪を撫でると、梨花の家の方に向かっていった。

「羽入! 甘いものなんかくれー!! 糖分取らないと死んじまいそうだー!!」

「確か冷蔵庫に確かケーキが入ってたと思いますです。」

「おぉ! ケーキなんて最高の御馳走じゃねーか!! ………梨花も早く来いよー。」

「……!!!」

「ほら、梨花。呼んでますよ?」

羽入は梨花の隣で前を向いたまま言った。

「……銀時! 私の許可なく冷蔵庫開けたら駄目だからね!!」

梨花は勢いよく走りだすと銀時の横に並んで歩きだす。

その顔に、もうさっきのような暗さは消えていた。

その変わりに見えるのは……確かな希望。

「一番大きいのは私! で、次が沙都子!」

「うるせー、うるせー!! 早いもん勝ちだ!!」

「何よ! 私が買ってきたんだからね!!」

喧嘩をしながらも仲良く歩く二人の後姿。

羽入はそれを見て静かにほほ笑んでいた。













終わりにしよう……この長かった舞台を………













--------------------------------------------------------------- to be continued...

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