学校に着いても私の気分は晴れなかった。

トラップだって仕掛ける気にもならないし、ましてや梨花の顔を見る事もできなかった。

だから私は一人、机に突っ伏している。

羽入さんや梨花はそれを圭一さんの事を考えてると思っているようだ。

私にしてみればそれはとても都合のいいことであり……

同時にとても辛いことだった。

梨花が圭一さんしか見ていないのは覚悟していた。

ホワイトデーだって貰えないとわかっていて渡した。

さっきそれを心の中で確認した。

それでも心は痛い。

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……







イタイ













「おーっす、おはよう!」

うるさいほどの声で挨拶しながら圭一さんが扉を開ける。

時計を見るといつもより少し早い時間だった。

「あれ? 今日はトラップなし?」

「はぅ〜、絶対に圭一君が引っかかると思ってたのに……」

その後から魅音さんとレナが不思議そうな顔をして入ってくる。

「みぃ☆ 沙都子だってそんな時もあるのですよ」

「そうだぞ! 俺はそんな沙都子の心情を読みきってたから堂々と入ってきたんだ!」

梨花に続いてそう言うと圭一さんは胸を張った。

いつもは明るくて面白い圭一さん。

しかし今日だけは……うまく見る事ができない。

見てると……そう、心に何かが広がってく気がする。

「ほら、沙都子……圭一が来ましたですよ」

いつまでも机に突っ伏してる私を見かねてか、羽入さんは私の頬を突いた。

「べ、別に関係ないのですわ!」

私はそう言ってその手を払いのける。

たったそれだけの事だけでさえも鬱陶しかった。

そんな私を梨花と羽入さんは顔を見合わせてくすくすと笑った。

どうせ照れているとでも思っているのだろう……

しかし反論してもどうせ無駄なので、私は何も言わなかった。

「そうそう、3人とも今日が何の日がわかってるだろうな!」

圭一さんはニヤニヤと笑いながら、カバンの中をごそごそとあさりだした。

「圭ちゃん、もう渡しちゃうの?」

「何言ってんだよ。お前とレナにはもう渡しただろうが」

「そうだけど……もっとシチュエーションとかあるじゃんか〜」

魅音さんはそう言って口を尖らせる。

「えへへ、見て見て沙都子ちゃん! これ、圭一君の手作りなんだって!」

レナさんはカバンから大事そうに包みを取り出した。

その中には数枚のクッキーと小さな猫のキーホルダーが別々に入っていた。

「キーホルダー作れるなんて凄いよね! 凄いよね!」

「別に凄くねーよ。オットセイのキーホルダー作ったときと同じ要領だから、結構簡単だったぞ」

圭一さんはそう言いながらも少し照れてるようだった。

「おじさんも同じの貰ったよ。確か緑の猫だったかな」

なるほど、よく見るとレナさんのはオレンジ色の猫だ。

「沙都子。お前にも一応貰ったからな……はい、これ」

そう言って圭一さんは私の机の上に包みを置いた。

中には数枚のクッキーと黄色の猫。

「ありがとうございますわ、圭一さん」

貰ったらお礼を言わなければならない……だから私はお礼を口にした。

……いつの間にか私は圭一さんに嫌悪感を抱いていた。

自分でもその理由はわからない……

「圭一、圭一!」 

私の隣で羽入さんが次は私だと言わんばかりの表情で圭一さんを見ている。

私だって昔はこんな風に素直にお礼を言えたのに……

いつから……

「わかったわかった。ほら、羽入の分」

そう言って圭一さんは羽入さんの手の上にポトンとそれを落とす。

「わ〜い! 貰ったのです! 貰ったのです!」

羽入さんは嬉しそうにその場でくるくると踊った。

その幼すぎる行動に私は少しだけ笑ってしまった。

「はぅ〜♪ 喜んでる羽入ちゃん、かぁいいよぅ〜!!」

「レナ、おもち帰りは駄目だよ」

「そこまで喜んで貰えると、作ったかいがあったってもんだ」

「あぅあぅ〜♪ あぅあぅ〜♪」

「こら羽入! いい加減にするのですよ」

そう言って梨花は羽入さんの頭に右斜め45度からチョップをする。

「あぅ! 痛いのですよ、梨花!」

「まぁ、梨花ちゃん。勘弁してやってくれ」

「みぃ〜……わかったのですよ」

「それでさ、梨花ちゃんの分なんだけど……」

圭一さんはそう言うときまりが悪そうに頭を掻いた。

「みぃ……僕の分はないのですか?」

「いや、あるんだけど……その〜……」

「実は梨花ちゃんに素敵なのをあげるの為に何回も作り直してたら時間がなくなっちゃたの……」

「レナ!? 何でその事を……あ」

圭一さんはしまったと言う顔で口をふさぐが既に意味はなかた。

梨花は顔を真っ赤にしているし、魅音さんと羽入さんは滝のような涙を流していた。

「……時間がなかったからクッキーだけ、と言うことですか?」

梨花が赤い顔のくせに平静を装いながら聞いた。

「いや、その……代わりと言っては何だけど……これ!!」

そう言って梨花の手に包みをのせる。

その中にはやっぱりクッキーと……そして青いオットセイのキーホルダーが入っていた。

「え……もしかしてこれ……」

「ま、その……俺のお古になっちゃうんだが……嫌ならちゃんと作り直すから!!」

俺がそう言うと梨花は首を振った。

「ボクは……これがいいですよ」

「あ、そう……」

そう言って圭一さんも顔を真っ赤にして俯く。

「はぅ〜、梨花ちゃんも圭一君も真っ赤でかぁいいよ〜!!」

そんな二人を見てレナさんは楽しそうに腕をぐるぐると回した。

きっと今、梨花は……もしかしたら圭一さんも……幸せなんだろう。

お互いに二人とも相手の気持ちに心のどこかでは気づいてる。

梨花は圭一さんを……圭一さんは梨花を……

それはとても素敵な事。

だから親友として仲間として私は二人を応援しよう。

そして……いつか……

その時、圭一さんの手が梨花の頭に触れた。

「なんですか、圭一」

「ん……何となくだ、何となく」

「みぃ☆」

そんなやりとりに私はついつい笑みをこぼした。

「沙都子ちゃん……」

レナさんが後ろから声をかけてきたので、私は振り返った。

「レナ、ちょっと向こうでお話したいな」

「何か用でもあるのでございますか?」

「ううん。ちょっとだけだから……ね?」

私はレナさんに言われるまま校舎裏へと来た。

「こんな所で一体なんですの?」

「沙都子ちゃん、これは真剣な話だから真面目に聞いてね」

私の声を押し返すかのような真剣な響き。

その声に私は態度を改めた。

「わかりましたわ」

そう言ってレナさんの目を見つめ返す。

「人の恋を応援する事はとても良い事だと思うの……だから私もその選択肢を選んだ」

レナさんはわかるよね?と言った風に笑った。

……私にはわかる。

レナさんは圭一さんの事を諦めていた。

それは梨花や魅音さんや羽入さんの為。

そして私はそれと同じ選択肢を選んだ。

そしてその事をレナさんは知っているのだ。

「でもね、それ以上に大事なのは自分の気持ちを伝える事……」

レナさんはそう言ってふっと、ため息をつくと空を見上げた。

「……私には出来なかった……もう、諦めちゃってたから。……でも」

レナさんは私の目を見つめた。

「沙都子ちゃんはまだ大丈夫……まだ大丈夫なの」

私はとっさに顔を背けていた。

レナさんの真剣な目がなんだか心に痛かった。

「話がそれだけでしたら私、教室に戻らせていただきますわ」

私は急いで背を向けると歩き出した。

これ以上ここに居たら崩される。

私の決心が……

「じゃぁ、最後に聞いて!!」

ピタリと私の足は止まった。

聞いちゃ駄目だ!

聞いたら……

「レナは沙都子ちゃんにも幸せになって欲しいの!」

聞いてしまった……

私の心の奥で何かが崩れ始める。

それと同時に涙も溢れてくる……

「……私は梨花と一緒に居たい……ずっと傍にいたい!」

溢れる涙が止まらない。

朝だってあんなに泣いたのに……

その時後ろから柔らかな感触が私を包み込む。

「大丈夫だよ……梨花ちゃんはあなたの気持ちがきっとわかる」

優しかった母のような温かさ……

ずっとずっと忘れていた……

「レナさん……レナさん!!」

私は振り返ると彼女の胸に顔をうずめた。

レナさんは何を言わずに私の頭を撫でてくれている。

「おーい、沙都子〜レナ〜! どこだー!」

遠くから圭一さんの声が聞こえる。

きっと突然消えた私達を探しに来たのだろう。

「沙都子ちゃん……帰ろっか」

レナさんは最後に私の涙を拭き取ってくれた。

「はいですわ」

「お! こんな所に居たのか……」

私は圭一さんの姿を見ると走って駆け寄った。

「うお! 何だよ、沙都子……」

「圭一さん、これは宣戦布告ですわ!」

私は圭一さんの鼻先に指をつきつけた。

「梨花は絶対渡しません!」

「はっ? 一体なんだ?」

「ふふふ、圭一君。気を抜いてると負けちゃうよ?」

困惑する圭一さんと笑ってるレナさんを後ろに私は教室へと走り出す。

そう言えば、今日はホワイドデーだった。







梨花からは何も貰えなかったけど……







それでも私は大きく前に進めた気がする……























幸せな未来に向かって













-------------------------------------------fin

ちょっと幸せなエンド……?
どうしても沙×梨な展開に持っていけなかった!
でもダークな終わりよりは素敵ですよね?w
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